同級生に怪我を負わせた少年が友人と二人で逃走中です。秀也はどこかで、そんな声を聞いたような気がした。
あれからもう、六時間くらいはたっただろうか? 僕らは学校を抜け出し、行けるとこまで行こうと決意した。
数日前にトモが拾った車を走らせ、僕らのいた町からどんどん遠くに離れていった。誰も僕らが車に乗って逃げてるなんて事は知らない。まさか、僕等が車を持っていて運転ができるなんて、思ってないだろう。警察も先生も両親もみんな町やその周辺を探しているのだろう。
逃げる原因はそんなにたいした理由ではなかった。今日は終業式だった。HRがはじまるまで、少し時間があった。
「秋山、お前、外人だろ。両親が日本人なのに変だよな。」
ニヤニヤしながらTが、声をかけてきたこいつはいつも僕に絡んでくる。いつものことだとスルーしていたら、Tをトモが力いっぱい、角材で殴ったのだ。僕は慣れていた。いつものことだ。人を蔑んではそれで、満足する人間はたくさんいる。僕は華麗にスルーしていたのに、トモがそれを許さなかった。Tは頭を抱え、床に倒れこんだ。小さくうなり声を上げて。
クラスは騒然となり、女子たちが騒いでいる。
「行こう! 秀也。」トモが言った。「車で逃げよう。」
「お前、運転できるのかよ?」
「あれから、ちょっと練習したんだぜ。」
隠してあった、車に乗り、僕らは逃げた。いくつも町を通り過ぎ夜の幹線道路を車で走らせる。
「この辺りは僕のおばあちゃんが住んでいた田舎町なんだよ。海が近い。」
車を隠し、僕らは歩く。
もう、朝になっていた。
山の手の住宅街の中にぼろぼろの階段だけになった、廃墟をみつけた。赤い屋根の西洋風の家にはもう何年も人は住んでいたいのだろう。この家はこの辺りでは少し高台になっていた。廃虚は4階建てくらいで少し小高い。屋上に上がり僕達は景色を眺めた。
「ほら、あそこに海が見える。」
そこには瓦屋根の町並みが一面に広がっていた。朝日が海に反射する。瓦屋根を照らしている。数人のセーラー服の女子高生たちが学校に通う。キラキラして細部までくっきり見える。いつまでも景色を見ていたかったが、そういうわけにもいかなかった。
「ばあちゃんちで一休みしよう。」僕らはトモのばあちゃんちに向かった。
「ばあちゃん、帰ってきたぜ。」トモは言った。
「あんたら、何したん! そこにおれ。」といって、トモのばあちゃんはどこかに電話した。
たぶん、警察か学校かのどっちかだろう。
「ああ。これでおわりかあ。」
本当は僕らは逃げる必要なんかなかったのだ。ただ、嫌なことからは精一杯逃げる。それが僕らの共通のポリシーだったのだ。
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