ブリキの蝉
また、最近おかしな夢を見るようになった。
美容室で働いていた。初めての仕事だった。先日ゴミ箱から見つけた彼が、シャンプー台で寝ていた。私が髪を洗うことになった。人の髪を洗うなんて初めてだ。後ろから洗っていいのか、前から洗っていいのかわからなかった。何度がシャワー口に彼の頭をぶつけてしまった。その度に私は知らないふりをした。
洗っていくうちに彼はどんどん小さくなっていた。そして手が滑って、彼は何処かに行ってしまった。少し焦ったが諦めていた。
しばらくすると、他の従業員の人が排水溝から苦労して彼を拾ってくれた。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、あのゴミ箱から、これを見つけたあなたの方が凄いですよ。」
「いえ、あの時は、もう少し大きかったので。」
私は、そのブリキのおもちゃをきれいに洗った。
「1万年後も好きでいるよ。」
私は、そのブリキに言った。ブリキの蝉は小さく頷いた。
1万年後、存在するのはあなたで、私はそれまでに此の世から消えて無くなるのは自明のことであった。
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